民事信託に関係する税金は、所得税法、法人税法、相続税法に跨り、かなり複雑なものとなっているため、正しく理解していないと思わぬ税負担を強いられる可能性があります。
今回は、民事信託でかかる可能性がある税金について贈与税・相続税を中心に税理士が解説いたします。
民事信託(家族信託ともいいます)とは、認知症や足腰が不自由になる等の理由で財産の管理や処分が困難になった場合に備え、信頼できる人に自身の財産を託することによって、財産の運用や管理を任せることができる法的な仕組みです。
他にも方法はありますが、ほとんどの場合は委託者と受託者で「信託契約」を締結する方法(信託契約)で信託を設定します。
信託法2条3項において、「~信託により管理又は処分をすべき一切の財産」とされ、財産の種類に制限はありません。また、信託財産の処分等、例えば、不動産を売却して得た財産も信託財産に含まれます。
負債は対象外ですが、信託財産に係るものは、信託契約で「信託財産限定責任負担債務」として、引き受けさせることはできます。例えば、信託財産の取得に要した銀行借入金や入居者からの保証金です。ただし、委託者の銀行借入金を免責的債務引受により受託者のみ債務を引き継ぐ場合には、債権者(金融機関)との交渉が必要になってきます。
預金そのものは、信託財産とすることが出来ないため、一旦金銭にして受託者名義の口座を金融機関に開設することになります。通帳には、「委託者の名前〇〇〇〇 信託受託者 受託者の名前〇〇〇〇」などと表記されます。
そして、大切なのは、財産の分別管理義務(信託法34条)です。原則として信託財産に対しては強制執行等が出来ません。受託者の固有財産と区別されることにより、倒産隔離機能が担保されます。
「節税対策のために家族信託」というイメージが有る方もいらっしゃいますが、そうではありません。結果的に節税効果を得られることはありますが、直接的な節税効果はありません。 また、家族信託をすることによってかかる税金もあります。
どのような税金が発生するのか、1つずつ見ていきましょう。
①所得税
信託財産により収益が発生している場合、所得税や住民税がかかります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
このケースでは、「委託者・受益者」である母が信託財産によって利益を受けるため、それに対する所得税や住民税が課税されます。
②贈与税
以下のように、委託者と受益者が異なる場合、信託財産が委託者から受益者へ移転したとみなされ、「贈与税」がかかります。「受益者」に支払い義務があります。
このケースでは、信託財産の名義が委託者から受託者へ移るため、受託者に贈与税がかかるように勘違いしがちですが、受託者は財産管理をしているだけなので、贈与税はかかりません。
③相続税
受益者がお亡くなりになった場合、財産の移転が発生するため、相続税がかかります。
以下のように受益者死亡後も第2受益者が受益権を相続し、家族信託が継続される場合は、「第2受益者」が相続税を支払う義務があります。
④固定資産税
固定資産税は、土地や建物などの不動産を持っている人に対してかかる税金です。家族信託の場合は、「受託者」が不動産を持つことになるため、固定資産税を支払う義務があります。
上記で説明したような税金が発生するタイミングを解説いたします。
①信託の効力発生時
家族信託の効力発生時に贈与税や相続税が発生する場合があります。
詳しくはこちらを御覧ください。
②受益者の変更時
受益者を変更する際、贈与税や相続税が発生する場合があります。
詳しくはこちらを御覧ください。
③受益者の一部がいなくなった時
受益者の一部がいなくなった場合、その他の受益者に贈与税が相続税がかかる場合があります。
詳しくはこちらを御覧ください。
④信託の終了時
受益者等の死亡などで家族信託が終了した場合、贈与税や相続税が発生する場合があります。
詳しくはこちらを御覧ください。
家族信託には、認知症による資産凍結を防いだり、柔軟な財産管理が可能になったりなど、メリットもありますが、受託者の負担が大きかったり、かえって税金が多くかかってしまったりなど、トラブルになってしまうケースもあります。
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