遺産の中に価値の大きな不動産がある場合などは、遺産分割の際に代償分割と換価分割のどちらにすべきかという話し合いはよくされるケースですが、今回は、それぞれの場合の税務上の取扱いについてご説明したいと思います。
遺産を共同相続人の一人又は一部の者が取得し、その代償として他の相続人に代償金たる債務を負担する遺産分割の方法をいいます。
共同相続した遺産を直接分割の対象とせず、実質的には未分割の状態で換価し、その対価である金銭を共同相続人間で分割する遺産分割の方法をいいます。
相続人:甲(長男)、乙(長女)
相続財産:
○宅地A
8千万円(相続税評価額)→被相続人と甲の居住用宅地
1億5千万円(時価…不動産査定価額)
○宅地B
4千万円(相続税評価額)→甲の事業用宅地
5千万円(時価……不動産査定額)
この事例は、実際に弊所で取り扱った事例ですが、遺産分割は、時価2億円をベースにそれぞれ1億円ずつの取得分で合意し、甲が宅地を単独取得し、その代償として乙に1億円の代償金を支払う事になりました。
そこで、甲は1億円もの高額な代償金を支払うため、宅地Aを売却することになりました。この場合の、相続税及び所得税の取扱いはどうなるのでしょうか。
相続税の申告上、代償分割が行われた場合の課税価格は、代償財産の交付を受けた乙は、「代償財産の価額」である1億円、代償財産の交付をした甲は、「現物の財産から交付した代償財産の価額を控除した金額」となりますので、
8千万円+4千万円-1億円=2千万円
となります。
ところでこの計算結果ですが、不合理なことにお気付きでしょうか。時価2億円の相続財産を平等に2分の1ずつ分割したにも関わらず、
相続税の負担割合は
甲:乙=2千万円:1億円
となり、乙の相続税の負担が大きくなっています。これは、相続税評価額と時価との乖離が大きいことによるものですが、この事例では、代償財産の価額の調整計算(相続税法基本通達11の2-10)をして、甲と乙の相続税の負担割合が2分の1ずつになるように申告しました。
所得税の申告上、譲渡所得の申告義務は不動産を単独取得した甲にあります。従って、甲の譲渡所得税は、(1億5千万円-取得費*1 -3,000万円*2)×税率となります。乙には、譲渡所得の申告の義務はありません。
*1 措置法39条 相続税の取得費加算の適用があります。
*2 居住用財産の3,000万円控除の適用があります。
甲が乙に支払った代償金は、取得費として参入することはできません。仮に、甲が乙に1億円ではなく、甲がもともと所有する不動産を乙に渡した場合には、その履行時に時価によりその資産を譲渡したものとみなされます(所基通33-1の5)ので、譲渡所税の申告が必要な場合があります。
では、宅地Aについて換価分割であった時の相続税と所得税の取扱いはどうなるのでしょうか。
●相続人:甲(長男)、乙(長女)
●相続財産:
○宅地A
8千万円(相続税評価額)→被相続人と甲の居住用宅地
1億5千万円(時価…不動産査定価額)
相続税の申告上、換価分割が行われた場合の課税価格は、宅地Aの「相続税評価額×換価代金の取得割合」となりますので、遺産分割で換価代金を2分の1ずつ取得することで合意したとすれば、甲及び乙の課税価格は、それぞれ、
1億5千万円× ½=7千5百万円
となり、相続税の負担も2分の1ずつとなります。
譲渡所得の申告は、甲及び乙が取得した2分の1の分だけ申告することになります。また、換価の都合上、共同相続人のうち1人の名義に相続登記したうえで換価した場合においても、遺産分割協議書等において換価分割であることが明らかな場合は、贈与税の問題は起こりません。
国税庁質疑応答事例「遺産の換価分割のための相続登記と贈与税」参照
今回のケースでは、空家の3,000万円の特別控除の適用要件を満たしていないのですが、仮に要件を満たしていた時には、甲及び乙それぞれに特例が適用できるため、換価分割の大きなメリットとなります。
遺産分割の際には、相続税及び所得税の申告まで見据えて行うことが重要であるといえます。
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