相続人が複数いるケースで、亡くなった方が遺言書により遺産の分け方を指定しなかった場合、相続人間で遺産の分け方を話し合いで決める必要があります。これを遺産分割協議と言い、この結果をまとめた書面を遺産分割協議書と言います。遺産分割協議は財産ごと個別に行うこともできますが、通常は1通の書面の上で全ての遺産につきその分割方法を記載します。いずれの場合も、相続人全員の合意が必要となります。
この遺産分割協議書は不動産の移転登記や銀行口座の解約・名義変更の際などに証拠資料として提示が必要となります(2016年12月の最高裁判決により預金も遺産分割協議の対象とされました)。そのため、通常は相続人全員で実印を押印し、各種手続きの際には全員の印鑑登録証明書を添付します。
通常、遺産分割協議書はその写しを相続税申告書に添付します。相続税はまずその総額を計算し、これを各相続人が取得する財産価額の比に応じて按分する仕組みになっています。そのため、遺産分割協議書で決められた分割方法に基づいて申告書上各相続人に帰属する財産を区分し、各々が負担する相続税額を計算することになりますので、その根拠資料として遺産分割協議書が必要となるのです。
では、もし相続税の申告期限までに遺産分割がまとまらず、各相続人の負担する税額が定まらない場合はどうなるのでしょう? これを理由に相続税の申告期限が延長されることはありません。
この場合、その未分割となっている財産は相続人全員で共有しているという前提で、各相続人が民法上の法定相続分に従って取得したものと仮定して、各相続人の負担税額を計算し、各々相続税を支払うことになります。
例えば、遺産総額は確定し、相続税の総額は500万円と計算できても、その分割方法が相続人である兄弟2人の間で定まらないまま申告期限を迎えてしまった場合は、とりあえず各人が250万円ずつ申告し納税することになります。
先の兄弟の例で、遺産分割協議が兄60%、弟40%の割合で財産を取得するよう整った場合、兄の納税すべき金額は300万円、弟は200万円となり、兄は修正申告を行い50万円を納付し、その一方で弟は更正の請求手続きにより50万円を還付してもらうことになります。
ただ、相続税総額が変わらない場合は、税務署に対して修正申告や更正の請求を行わなくても、相続人間で精算してしまうこと(先の例で言うと、兄が弟に50万円を支払って終わらせてしまうこと)も許されています(相続税法上、更正の請求だけでなく、修正申告も「できる」という規定になっています。総額が納められている以上、誰が納付するかについては税金を徴収する側にとっては関係がないということでしょう)。
ところで、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の評価減などの特例は、遺産分割協議が完了していることが適用の前提となります。しがたって、申告期限までに遺産分割協議が整わない場合、将来の修正申告や更正の請求においてこれら特例の適用を受けられるよう、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を作成し、当初の相続税申告書とともに期限内に提出します。これにより、期限後に遺産分割がなされた場合であっても3年以内であれば、特例の適用を受けることができます。
また、3年を経過する時点においてもまだ遺産分割協議が整っていない場合であっても、一定のやむを得ない事情(相続等に関する訴えが提起されているなど)がある場合は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過するまでに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」という書面を提出し、その申請につき所轄税務署長の承認を受けられれば特例適用が可能となります(ただし判決確定などの日より4ヶ月以内に遺産分割を確定させる必要があります)。
このような救済策が用意されてはいますが、修正申告や更正の請求の手続きに手間がかかることや、税務調査となることを避けるためにも、遺産分割協議は10ヶ月以内にまとまることを目指して進めてください。
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