既に多くの方がご存じかと思いますが、「相続税申告が必要になるか、ならないか」について大きな判断基準となる基礎控除の金額が、昨年1月1日より大幅に引き下げられています。現在の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」と定められており、従来の60%の水準となっています。
この影響で平成27年中の相続税申告数が実際どの程度増加したかについては、国税庁より今年12月に公表されるまで判明しませんが、平成26年の実績(被相続人56,239人)を大きく上回ることは間違いないでしょう。
相続税もかなり身近な存在となりました。
この基礎控除の金額を決める「法定相続人」ですが、原則として民法に規定する相続人を指します。すなわち、親子3人のご家庭で父が亡くなった場合、母および子1人が法定相続人となり、基礎控除の金額は、3,000万円+600万円×2名=4,200万円となります。
通常、この金額と父の残した遺産総額との比較で、相続税課税が生じるか否かを一次的に判断します。
この基礎控除額の計算に加味する法定相続人の範囲ですが、以下の2つのケースにおいては、民法と異なる考え方で決められているため留意しておく必要があります。
相続において養子は実子と全く同様に取り扱われますが、相続税計算上の基礎控除の金額を計算するに際しては、上記の「法定相続人」に含まれる養子の数は次のような制限があります。
すなわち、孫2人を養子にしたとしても、実子が生存している場合、基礎控除の計算上、孫養子のうち1人はカウントされないという結果になります。
一般に子の配偶者や孫を養子にすることは相続税の生前対策として有効とされていますが、その数にはこのような上限があることに注意が必要です。
相続人が家庭裁判所で相続放棄の手続きを取り、受理された場合、その相続人は民法上、その相続に関して、初めから相続人とならなかったこととみなされます。しかし、相続税法上、基礎控除額の計算については、「その放棄がなかったものとした場合における相続人の数とする」と定められています。
したがって、相続放棄をして、一切遺産を受け取らないこととなった被相続人の子であっても、基礎控除の計算上は上記の「法定相続人」に含まれることになります。
またその反面、ある相続人の相続放棄があったことにより反射的に相続人になった者がいたとしても、この者は基礎控除の計算上、上記の「法定相続人」に含まれないということになります。
例えば、先の親子3人のご家庭のケースで、子が相続放棄をした場合、民法の規定に従い、亡くなった父の両親(以下、祖父母)が存命であれば相続人となりますが、この場合であっても、基礎控除の計算上の法定相続人は、母および祖父母の3名ではなく、あくまで母および子の2名(基礎控除額は4,200万円のまま)となります。
すなわち、相続放棄をした者がいたとしても、基礎控除の金額には一切影響しないということとなります。
ところで、被相続人の子がまだ 胎児であったケースについても規定があります。民法では「胎児は、相続に関しては、すでに生まれたものとみなす」と胎児にも相続権を認めておりますが、相続税の基礎控除額の計算において胎児は、申告書提出日までに生まれていない場合、法定相続人には含めずにいったん相続税計算を行なうとされています。
その後、胎児が生まれた時に初めて法定相続人とされ、基礎控除の計算に含めることとなります。
よって、もし相続税申告書の提出期限後に胎児が生まれた場合は、相続人の異動が生じたという扱いとなり、基礎控除額が増額したことに伴う相続税額の過大納付分は更正の請求を行なうことにより還付請求することとなります。
ただ、相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月先であるため、実務的に多くのケースでは、胎児が生まれるのを待って、法定相続人に胎児も加味して税額計算を行なった上で、相続税申告書を提出することになるかと思います。
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