今年4月より適用が開始されている平成30年税制改正事項のうち、小規模宅地等の特例に関して、被相続人が居住していた宅地(特定居住用宅地)に対する要件が厳格化されたことについては先にご説明しましたが(詳しくは「平成30年度税制改正大綱 - 小規模宅地特例の要件厳格化」をご参照ください)、この小規模宅地等の特例については、被相続人が貸付事業に供していた土地に関しても、今年4月よりその適用要件が厳格になっています。
本稿ではこの小規模宅地特例の「もう一つの厳格化」についてフォローしたいと思います。
貸付事業用宅地とは、事業と称するに至らない程度の不動産の貸付けの対象となっている宅地を言い、被相続人(またはこれと生計を一つとする親族)が比較的小規模に行っている貸アパートや貸駐車場などの敷地を指します。
小規模宅地特例制度においては、この敷地を取得した相続人が、相続税の申告期限まで、当該土地の貸付事業を継続し、かつ保有し続けるなどの要件を満たせば、200㎡を上限に、50%の評価減をすることができます。
居住用宅地に適用する場合の上限が330㎡で、評価減の割合が80%であることと比較すると、相続人にとっての制度上の有利性は劣るのですが、相続人全員がマイホームに居住しており居住用宅地への適用ができない場合や、貸駐車場の敷地単価が自宅に比してかなり高い場合などにおいて有効に活用することのできる制度です。
この貸付事業用宅地に関するこの度の改正内容ですが、限度面積や評価減の割合が変わった訳ではありません。適用に際して、貸付事業の開始時期についての要件が加わりました。すなわち、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地については特例適用の対象外とすることとされました。
これは、この特例を適用することだけを目的として、相続開始の直前に急に貸付事業を始めるといった特例適用の濫用を避けようとするものであり、その趣旨は先の居住用宅地の適用の厳格化と相通じるものがあります。
ところで、この新たな要件が加わることに関連して留意すべき事項が2点あります。
1つ目は経過措置なのですが、この新制度の適用開始前、すなわち平成30年3月31日までに貸付事業の用に供された土地については、特例の対象外となる規制は受けないということです。
ただ、ここで言う「事業の用に供する」とは、単にアパート等を取得しただけでは足りず、実際に貸付事業を開始していなければならないとされています。
(この税制改正が明らかにされた後、駆け込み需要があったようですが、実際に3月末まで貸し付けていると言える状況に持って行くことは相当困難であったと思われます。)
留意すべき2つ目は、相続開始前3年を超えて一定の事業的規模(いわゆる「5棟10室」以上が基準となります)で不動産貸付事業を行っている者が新たな行った貸付事業は、相続開始前3年内の事業開始であったとしても、この規制は受けず、特例の適用があるということです。
すなわち、被相続人が生前から3年を超えて10室以上あるアパート経営をしている場合に、亡くなる直前に2棟目のアパートの賃貸を開始していた場合などは、たとえそれが相続開始前3年内の事業開始であったとしても、当該2棟目のアパートは特例適用の対象に含めてもよいということになります。
この貸付事業用宅地に関する小規模宅地特例の適用には、貸アパートに空室がある場合の調整や、貸駐車場の場合に一定の構築物が存在していなければならないといった適用要件など、利用するにあたり検討を要する事項が諸々あります。適用の可能性がある方は専門家に早めにご相談いただければと思います。
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