「配偶者に対する相続税額の軽減」及び「小規模宅地等についての課税価格の計算の特例」の適用をする場合
申告期限までに遺産分割が成立しない場合でも、相続人の方は、法定相続分に応じて遺産を取得したとして、相続税の申告書を提出し、納税する義務があります。
相続人の方の中には、遺産分割に集中し、相続税の申告及び納税にまで気が回らず、申告期限間際に慌てるという方も少なからずいらっしゃいます。相続税の申告は、必要書類の収集から財産の評価そして申告書の提出まで相当な期間を要するものです。また、納税も未分割ですと相続財産から支払うことが出来ない事が多いため、相続人の方がご自身の財産から支払うことになるのですが、期限間際に納税資金がないということもよくあることです。
そしてなんといっても、未分割申告の場合、「配偶者に対する相続税額の軽減」及び「小規模宅地等についての課税価格の計算の特例」(以下、「小規宅地等の特例」という)が適用できないという大きなデメリットがあるため、納税額が大きくなるケースが多いのです。 今回は、申告期限までに遺産分割が成立せず、「配偶者に対する相続税額の軽減」及び「小規模宅地等の特例」が適用されていない未分割申告書を提出された方が、その後遺産分割が成立し、更正の請求をする場合の具体的な手続きについて確認をしたいと思います。
配偶者の遺産形成への貢献に対する配慮や老後の生活保障等の観点から、配偶者に対しては、取得した遺産のうち、法定相続分又は1億6千万円いずれか多い金額まで相続税を課さないという軽減措置です。
軽減効果がとても大きな制度ですが、未分割の場合には、配偶者が遺産を取得するとは限らないため、適用することが出来ません。
このような場合には、未分割申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することになります。その後、分割協議が成立した折には、配偶者に対する相続税額の軽減が適用できることとなり、分割協議の成立を知った日の翌日から4か月以内に、税務署に対して更正の請求をすることになります。
この配偶者に対する相続税額の軽減ですが、とても気をつけなければいけないことがあります。例えば、遺産総額1億円、夫が亡くなり相続人が妻と子2人で妻が全ての遺産を取得する場合、軽減措置を適用すれば、税金はゼロとなるのですが、こちらの制度は申告して初めて適用が認められるものですから、妻には申告義務があります。また、税金がゼロだからといって、いい加減な申告をして、税務署に「仮装隠ぺい行為」があったと認定されると、軽減制度が適用できなくなります。
こちらの制度も1. と同様とても大きな節税効果があります。特に、特定居住用宅地等に該当すれば、330㎡までは宅地の評価額を8割減額することができます。
こちらも、未分割の場合には、未分割申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付します。その後、分割協議が成立した折には、分割協議の成立を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をします。
ところで、この小規模宅地等の特例ですが、小規模宅地等の特例の適用の可能性を有しているその他の相続人の同意を証する書類を申告書に添付することになっています。例えば、相続人が子Aと子Bのみで、子Aが特定居住用宅地等に該当する宅地を取得し、子Bが貸付事業用宅地等に該当する宅地を取得した場合、子Aが特定居住用宅地等の適用を受けるには、子Bの同意が必要となってきます。
遺産分割で争っている場合には、同意を得られないなんてこともあるのではないでしょうか。子Bは自分が取得した貸付事業用宅地等に小規模宅地等の特例を適用した方が子B自身の相続税が少なくなるので当然のことかもしれません。実務では、結果として同意を得られず小規模宅地等の特例が適用できないこともあります。
こちらの書類A4の紙1枚でとてもシンプルなものになっております。 分割されていない理由と分割見込みの詳細を簡単に記入して提出すればよいのですが、念のため、控に税務署の収受印をもらった方がよいと思います。
そして、最も注意すべきは、申告期限後3年以内に分割協議が成立しなかった場合です。この場合、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して、税務署長の承認を受けた場合に限り、3年経過した後でも、更正の請求により①②が適用できるのです。 3年経過する日の翌日から2か月以内に提出を失念した場合には、認められません。分かっていても、失念するケースがあります。
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