相続税の申告をされた方の中には、「納めた相続税が払いすぎではないか、もう一度見直してほしい」とお考えの方もいらっしゃるかと思います。
いわゆる、「還付申告」という言葉が世間一般的には使われているようですが、このような場合には、正式には、「更正の請求書」という書類を税務署に対して提出することになります。
更正の請求とは、課税価格等の計算が誤っていたことにより、税金を納めすぎていた時に、税金を戻してもらう手続きになりますが、一般的な国税に関する更正の請求ができる場合については、国税通則法第23条に規定されております。
ただし、相続税については、相続という被相続人から相続人への財産等の承継という民法上の法的問題もあるため、相続税法第32条に個別に規定されているのです。
では、相続税法第32条の更正の請求事由とはどんなものなのでしょうか。今回は、代表的なものとして、以下の2つご紹介させていただきます。
一つ目は、未分割財産について、法定相続分に応じて申告をしていた場合において、その後、遺産分割協議が成立し、当初の相続分による課税価格と異なることとなった場合です。
これは、弊所でもよくあるケースになりますが、当初の相続分より多く取得された方は相続税が増えますし、当初の相続分より少ない方は相続税が減ります。このような場合には、納めすぎた相続税を戻してほしいと考えるのは当然の事です。そこで、税務署に対して更正の請求をすることになります。
二つ目は、遺留分の侵害額請求に基づき返還すべき又は弁償すべき額が確定した場合です。
こちらもよくあるケースになりますが、遺留分を取得した方の相続税が増える一方、遺留分侵害額請求をされた方は、相続税が減ります。
ところで、国税通則法の更正の請求の期限が、原則として法定申告期限から5年となっているのに対して、相続税法の32条の更正の請求は、「当該事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内」となっており、法定申告期限から5年を超えても更正の請求をすることができるのです。
では、上記のような場合に、相続税が増えた方の手続きはどうなるのでしょうか。
実は、相続税法第30条(期限後申告の特則)及び相続税法第31条(修正申告の特則)に、上記のような事由が生じた場合は、それぞれ期限後申告書又は修正申告書を提出することができると規定されているのみで、申告書の提出義務も提出期限も定められていません。
したがって、相続税が増えた方は、あえてこれらの申告書を提出しなくても構わないことになります。
実務では、相続人同士で、相続税の精算をしてしまうケースも多いのではないでしょうか。
税務署としても、納付する相続税額の総額が変わらなければ問題がないということです。ただし、一方で更正の請求書が提出された場合には、もう一方の方には、更正通知書又は決定通知書が送付されることになります。
逆に気を付けていただきたいのは、更正の請求書が出たことを確認してから期限後申告書等を提出した方がよいということです。
先に期限後申告書等を提出して、更正の請求の期限の4か月が経過してしまうと(国税通則法の更正の請求が適用できればよいのですが)、税務署が減額更正をしない限り、納めた税金が戻ってこないことになります。
遺産分割で争われる場合、相続人の方々は遺産分割に集中して税務申告まで気が回らない方も多いのですが、早めに税務申告のご相談をされることをおすすめします。
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