相続税対策として不動産への投資がよく行われています。これは一般に不動産の評価額が実際の取引価額より低く評価されるからです。この不動産を貸地・貸家とすれば更に評価額が下がり、相続税対策として有効な手段となります。(詳しくは 不動産を活かす!節税対策 をご参照ください。)
このような対策を行った方がお亡くなりになった場合、相続財産の中に貸アパートや貸駐車場のような収入を伴う不動産が含まれることになります。
この家賃収入や駐車場収入は不動産所得として所得税の対象となるのですが、誰がどのように申告することになるのでしょうか。
今回はこの問題を整理していきます。
まず、被相続人がお亡くなりになる日までの収入ですが、これは被相続人の収入ですので、あくまで被相続人の所得として申告する必要があります。もちろん、お亡くなりになった方が確定申告することはできませんので、申告は相続人が代わって行います。これを準確定申告と言い、被相続人の死亡から4ヶ月以内に行う必要があります。相続税の申告期限(死亡から10ヶ月以内)より随分早いのでご注意ください。
では、被相続人が亡くなった後の収入についての申告ですが、これは相続人の収入として自身の確定申告に含めて申告します。これまで確定申告など無縁であった方も、このために申告する必要が生じてきます。
相続人が一人である場合は分かりやすいのですが、相続人が複数いる場合はどうなるのでしょう。
もし被相続人が遺言書を残されていて、賃貸不動産を引き継ぐ者が指定されていれば、その方が確定申告をすることになります。遺言書がないケースでも相続人間で早々のうちに遺産分割協議が整い、特定の相続人が引き継ぐことになった場合も結果は同様です。
問題となるのは、被相続人が遺言書を残さず、かつ遺産分割協議が確定申告の期限までに整わなかった場合です。この場合、相続財産は相続人全員で共有している状態となっているため、民法の法定相続分に従った割合で不動産収入を按分した上で、相続人全員が申告をすることになります。
父が亡くなり、母と息子が相続人となる場合、不動産収入は2分の1ずつ各々が申告し所得税を納付することになります。
では、確定申告書を提出した後に遺産分割協議が整い、先の例で言うと、母が全ての賃貸不動産を相続することになった場合、過去の所得税の負担はどのようになるのでしょう。遺産分割協議の効力の発生は相続の開始時点に遡るという原則に従うと、息子は納付する必要のない所得税を負担したので還付してもらえるようにも思えます。
この不動産収入の帰属については最高裁で判断がなされており、家賃等の賃料債権は「遺産とは別個の財産」であり、「分割単独債権として確定的取得する」とされ、「後の遺産分割の影響を受けない」とされています(平成17年9月8日最高裁判決)。すなわち、所得税申告後の遺産分割において法定相続分と異なる分割割合で賃貸不動産を分けることになっても、過去の所得税申告を修正する必要はないということです。遺産分割協議後に発生する収入より、分割協議の結果に従った所得税申告(全て母の所得として申告)をすればよいということになります。
最後に、この相続に起因する確定申告に関して1点注意していただきたいこととして、青色申告の申請があります。
損失の繰越しや特別控除などのメリットを得るため、多くの事業所得者や不動産所得者がこの青色申告を申請し行っていますが、この「青色申告できる」という立場は相続されません。すなわち、賃貸不動産などを相続した相続人は改めて自己の名で青色申告の承認申請をしなければなりません。
この相続人が青色申告を申請する期限は、被相続人の亡くなった日を基準に次のように定められています。
この期限を過ぎてしまうと、少なくとも被相続人がお亡くなりになった年の確定申告は白色申告となってしまいますので、どうかお気を付けください。
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